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キューネ、ツィーマン編著『軍事史とは何か』要約その1

3月3日発売の共訳書について各章の概要を紹介します。
各章ごとに内容はとても充実していますので、あくまでご参考とお考えください。

トーマス・キューネ、ベンヤミン・ツィーマン編著、中島浩貴・今井宏昌・柳原伸洋・伊藤智央・小堤盾・大井知範・新谷卓・齋藤正樹・斉藤恵太・鈴木健雄訳『軍事史とは何か』原書房、2017年。

第一章 拡大のなかにある軍事史 流行、解釈、構想
トーマス・キューネ、ベンヤミン・ツィーマン(中島 浩貴訳)
現在のドイツの軍事史研究が順調である一方で、理論的な問題を抱えている点を論じている。いままでの戦争の歴史をめぐる議論のなかで、「軍国主義」と「苦難の歴史としての戦争」という二つの「大きな物語」が軍事史研究を行う前提となってきたことが示され、この枠組みにとらわれない視点の重要性を強調している。軍事史が多様な方法論を持っており、それをどのようにまとめていくかという問題が紹介されている。

第二章 学問と政治のあいだの軍事史
ヴォルフラム・ヴェッテ(今井 宏昌訳)
本章では、参謀本部の戦史研究が政治的に従属化しており、戦史が軍隊の「威信を守る」ものとなり、戦史叙述が軍事プロパガンダとしての意味を持ったことが批判されている。第二次世界大戦後、研究の自由を前提として徐々に軍事史研究は進展し、批判的軍事史や東独の軍事史研究、歴史的平和研究による模索を経て、大学での新たな軍事史の芽生えが生じた状況が描かれている。

第三章 息の詰まるような場での研究――東ドイツ時代の軍事史研究にたいするいくつかのコメント
ユルゲン・アンゲロフ(柳原 伸洋訳)
東独の軍事史研究は隔絶した、狭い空間に押し込められた存在になってしまっていた。東側では「学術および党の立場からの見解の統一」への要請が繰り返し掲げられ、歴史が利用されていた。軍事史は一般的な歴史学に含まれるだけではなく、加えてイデオロギー的な史的唯物論と階級闘争に基づいていたのである。もちろん多くの改善は見られ、なかには優れた研究も存在したが、多くの制約のなかでの研究を余儀なくされることになった。

第四章 冷静かつ客観的に?――学術的軍事史に関する見解
ゲルト・クルマイヒ(伊藤 智央訳)
軍事史研究では、応用志向の軍事学と軍事当局者の政治的意図を読み取ろうとする批判的歴史学の二つの流れが並立してきたが、この二つの流れを統合することは可能である。そのための鍵は、対象の底を流れる心性を捉えることが重要なのである。これによって応用志向の軍事学を克服し、批判的な軍事史叙述を成立させることができる。

第五章 作戦史の目的とは何か
ベルント・ヴェークナー(小堤 盾訳)
 有名な格言では、教皇の控えの間では悪しき教会史は排除される。つまり軍隊内部の戦史は軍にとって好ましくない戦史は描かれない。旧来の戦史では実用的な方法論が伝統的に優位を占め、その一方で「新しい」作戦史での批判的なアプローチが依然として学問的・理論的に十分定着していないことが問題となる。作戦史が発展していくためには、専門的な軍事的利害にとらわれず、自由な空間と明確な民間人による刺激を必要とするのである。

第六章 作戦史としての軍事史―ドイツとアメリカのパラダイム
デニス・E・ショウォルター(小堤 盾訳)
 近代的な作戦史の理論的・概念的発展は、軍事史の大変動を招いた。すなわち、軍隊の比類のなき特殊な役割が再発見され、新たに定義されたのである。それは全体として軍民双方の積極的な共生を示している。それはアメリカでようやく成果が出始めたところであり、ドイツでも魅力的な具体例を提供しているのである。

第七章 軍事史と政治史
ヨスト・デュルファー(大井 知範訳)
 軍事と政治を歴史的に見ていく三つの視点から論じている。第一に、軍事史が現実の政治的な影響を受けやすかったこと、第二に、政治と軍事を切り離す考え方に多くの問題があること。第三に、軍隊や戦争にかかわる問題を政治学的なアプローチと同じく行為者(アクター)をとらえる中で検討していくことの重要性が検討されている。

第八章 軍事史における政治の概念――若干の観察と提言
トーマス・メルゲル(大井 知範訳)
軍事と政治の関係性を歴史の問題からどのように考えるべきか議論が展開されている。最初に、軍事と政治を二つの領域に分けて考える二元主義から見た解釈の方法が提示され、次に、軍事と政治双方の領域の近接性を前提とする収斂理論が紹介されている。この二つの理論の比較が試みられた後、政治をコミュニケーションの過程として捉える最近の新たなアプローチの可能性が展望されている。

第九章 軍、戦争、社会―社会史における兵士と軍エリート
マルクス・フンク(伊藤 智央訳)
軍事史を暴力の社会化の歴史として一般化した形で捉える必要が出てきている。そのためには、軍の構造、日常世界との結びつき、兵士の個人的・集団的な行動といった、「上から」と「下から」の視点における研究で扱われる対象を相互に結び付けながら解明することが求められる。それゆえに、そこでは社会史の方法論が軍事史研究において今後もなお重要な意味を帯びてくるという。
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プロフィール

中島浩貴

Author:中島浩貴
専門は歴史学(ドイツ史、軍事史)です。軍事思想家クラウゼヴィッツについても、近代史の枠組みのなかで関心があります。ほかにも、「教養」や、地域研究、地域文化の振興などといった問題にも注目しています。最近は、東京電機大学理工学部の近郊地域、東松山(高坂)、鳩山、坂戸(北坂戸)界隈の話題が多い気がします。

本年度(2016年)は、歴史学A・B、欧米文化研究、教養ゼミナールA・B、初級ドイツ語I・II、ことばと社会、フレッシュマンゼミB、卒業研究を担当しています。また、埼玉工業大学では、「20世紀の歴史」を担当しています。

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